生体異物によるビタミン代謝および必要量の変動 (抜粋)
  名古屋大学農学部農芸化学科  吉田 昭         (総合体力研究所資料より) 
     PCBやDDT摂取動物の肝臓のビタミンA濃度が低下することは既に知られていたが、肝P450を誘導するその他の
     生体異物にも同様の作用のあることを見出し、ビタミンAがP450系によっても代謝される可能性を示唆した。
     ( 肝P450 : チトクロームP450、肝臓に存在する解毒酵素、約70種類ある )
     ラットをPCB、DDT、BHTなどを含む飼料で飼育すると、P450の誘導が示され、それに伴って肝ビタミンAの濃度は
     減少した。食餌タンパク質レベルを高くするとP450の誘導は大きくなり肝ビタミンAの減少も促進された。
     このような実験結果から生体異物による肝ビタミンA濃度の低下は肝MFOの活性と密接に関連していることが推定
     できる。( 肝MFO : チトクロームP450系の酵素のひとつ ) 
     PCB含有食でビタミンA欠乏症状の起こることも印南らによって報告されており、生体異物の摂取によりビタミンAの
     摂取必要量は増加し、高タンパク食でその影響の大きいことがわかる。
     Conneyらは鎮痛剤や解熱剤などをラットに投与すると尿中のビタミンC排泄の増加することを報告している。
     これらのことからラットの尿中ビタミンC排泄を増加させる物質は肝MFO活性を誘導させる生体異物に共通の性質で
     あることが想像される。
     ラットは体内でビタミンCを合成できるが、通常は尿中にビタミンCは体重100gに当り、一日わずか1mg足らずしか
     排泄せず、飼料中300ppm程度のPCBを添加すると尿中ビタミンC排泄は10mg以上に増加した。
     DDT、クロレトン、アミノピリンなどの投与でも著しく増加し ベントバルビタールやBHTによっても明らかに増加しており、
     これらの増加の程度と肝MFOの活性誘導の間には相関性が認められた。
     また、単にビタミンCの尿中排泄が増加するだけでなく、肝臓中のビタミンC濃度も2〜3倍に増加し、脾臓や脳でも
           高くなった。
     ラットは体内で必要に応じてブドウ糖からビタミンCを合成できるので、生体異物に対するこのような応答は一種の
     生体防御反応ではないかと考えられる。
     ブドウ糖からのビタミンC合成酵素活性を測定すると、UDPG-デヒドロゲナーゼ、グルクロニルトランスフェラーゼ、
     グルクロニダーゼなどの活性がPCB摂取で増加した。
     このようにラットでは、生体異物の摂取によりビタミンCの必要性が高まり、合成も増加したものと考えられる。
     一方、人やモルモットではビタミンC合成系の最終段階に関与する物質が欠損しているため、ビタミンCを合成する
     ことができない。 したがって、生体異物摂取条件では通常よりも多いビタミンCが必要になると考えられる。
     実際にモルモットを用いて飼料中のビタミンC濃度を変え、PCBによる体重増加への影響をみると、PCBのない食餌
     では飼料中のビタミンCは200ppmで十分であるが、PCBの存在下では800〜1,000ppmのビタミンCを添加した
     時に成長は最大となった。
     また、近年日本で開発された遺伝的ビタミンC合成不能ラットを用いて飼料ビタミンC含量と生体異物による肝P450
     量やMFO活性の誘導との関係を調べると最大誘導の為には通常のビタミンC必要量より多くの量が必要であること
           が明らかとなった。
     ビタミンCはP450の維持や誘導に関するだけでなく、コレステロール、胆汁酸、ステロイドホルモンの代謝等を通じて
     生体異物と種々な面で関わっており、MFOの活性誘導もその中の一つではないかと考えられる。
     ラットに生体異物を与えた際のビタミンC合成増加機構を調べるため、ラットの初代培養肝細胞を用いて培養液中に
           PCBを加えるとMFOの活性の誘導とともに細胞中のビタミンC濃度も増加し、ビタミンC合成系のグルクロニルトランス
     フェラーゼの活性も増加した。
     したがって、PCBによる肝ビタミンC合成増加は細胞への直接的な作用によると思われる。
    

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